新海誠監督の2007年公開映画、『秒速5センチメートル』は3部からなる映画です。
「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」
この3部からなっていて、主人公は、遠野貴樹と篠原明里の2人です。
「ここで終わり?あれ?なんで?」
このふたりの関係が、桜の花びらが舞い落ちるように、ゆっくりとした時間の中で描かれて、見た者はそのあとで考えさせられる作品です。
切なくて辛かった感想と、見終わったあと思った「なぜ?」について考察します。
ネタバレを含みます
もくじ
『秒速5センチメートル』切なくつらい結末の感想
「え?終わり??」
エンドロールを見て、しばし動けませんでした。
だって。
「いつ、どんな再会を果たすんだろう?」
って、その瞬間を待ちながら見てたんですから。
しかし、最初からそんな運命だったと、よくよく考えるとじわじわと腑に落ちてきました。
それでもやっぱり、こんな終わり方はつらいなぁ。
『秒速5センチメートル』のあらすじ
貴樹と明里は、東京の同じ小学校にやってきた転校生です。
外で遊ぶことより、本を読むことが好きなふたりは、気があい仲良しでした。
しかし、明里は、親の仕事の都合で、栃木に引っ越しをしてしまうことになります。
貴樹は、明里に手紙を書きますが、渡せないまま、明里はお引越しをしてしまいました。
半年が過ぎ、中学1年生になった貴樹のもとに、明里から手紙が届きました。
そこからふたりの文通が始まります。
しかし、今度は、貴樹が、親の仕事の都合で、種子島に引っ越しをすることになります。
中学生のふたりにはあまりに遠い距離。
意を決した貴樹は、学校が終わってから、明里に会いに行きます。
ひとりで乗るのは初めての場所ばかり。
その日に限って、雪が振り始めました。
栃木に向かう列車からの車窓には、どんどん積もっていく雪景色が。
積雪のため、遅れる電車。
新宿を出たのは16時30分頃だったのに、明里の待つ岩舟駅に着いたのは23時15分。
明里は、駅の待合室でずっと待っていました。
明里の作ってくれたお弁当を食べ、駅から出たふたりは、大きな桜の木の下で、お互いの気持ちを感じ。
そっとキスをします。
納屋で朝まで、尽きることなく話をして迎えた翌朝。
駅で、お別れの時がやってきました。
2部では、貴樹は種子島の高校生になっています。
貴樹に思いを寄せる同級生もいますが、貴樹はどこか遠い目をしたまま。
いつも携帯でメールをしています。
しかし、そのメールは、いつも送信することができずに消されるメールでした。
貴樹は、東京の大学へ進学しようとします。
3部で、貴樹は社会人になっています。
付き合っていた彼女からは
「1000通メールをしても1センチしか近づかないかった」
と言われ別れてしまい、仕事も辞めてしまいました。
明里には婚約者がいて、4ヶ月後に結婚を控えています。
明里は実家に置いてあった箱の中から、あの日、貴樹に渡そうとして渡せなかった手紙を見つけます。
同じ日に、お互いの懐かしい夢を見る貴樹と明里。
東京の街で、懐かしい踏切で。
貴樹と明里はすれ違うのに・・。
転校から半年してはじまった切ない文通
明里からの手紙で、貴樹と明里の文通がはじまりました。
貴樹は、明里がいつもひとりでいるような気がして、明里の心配もしています。
文通をしながら、最初は「拝啓」から始まっていた明里の手紙が「前略」に変化していくところに、ふたりの距離が近づいていることを感じます。
それでも「前略」くらいの距離感なんですよね。
大切に大切に、秒速5センチで近づいていたふたりの心。
少しづつ近づくはずでした。
遠い距離が近くなっていくはずだった時、貴樹が種子島に行くことに。
中学生のふたりには、想像もできないくらいどうしようもなく遥かに遠い距離です。
距離が近づいていただけに、余計に切なくなりました。
もし踏切で再会していたらもっと辛い結末だった?
大人になった貴樹と明里が、思い出の踏切ですれ違っているのに気づかない場面。
なにかを感じで振り返った貴樹の視界を遮ったのは、電車で、長くあかない踏切の遮断器でした。
遮断器が上がったとき、明里の姿はありませんでした。
明里は、なにかを感じることがなかったのです。
もし、あの踏切で2人がお互いに気づいていたら?
おそらく、明里は驚きながら
「貴樹くん・・?」
と言ったあと、にっこり微笑んで
「会えてうれしい。」
と笑顔で、貴樹との再会をなつかしむんじゃないかと思います。
すれ違いで良かったんだと思います。
ちょっとした出会いやすれ違いで、人生って変わっていきます。
そんなすれ違いを、縁がなかったと人は言います。
『秒速5センチメートル』手紙を出さなくなったのはなぜ?
貴樹はなぜ手紙を出さなくなったのか?
貴樹は、明里と再会した時に、ふたりがこれからどうなるのかを確信しました。
ぼくたちはこの先もずっと一緒にいることは出来ないとはっきりわかった。
ぼくたちの前には、いまだ巨大すぎる人生が 防爆とした時間がどうしようもなく横たわっていた。
それでも、別れ際に
「手紙を書くよ!電話も!」
と言います。
この先、明里との心のつながりが続かないことを悟りながらも、言わずにはいられなかったのでしょう。
しかし、空のポストを見るシーンからその後の文通はなかったんのだと、私たちは知るのです。
明里はなぜ手紙を出さなくなったのか?
明里は、貴樹を待っている間、駅の待合室で手紙を書いていました。
別れの時に、書いていた手紙を渡さず、
「貴樹くんはきっとこの先も大丈夫だと思う」
と、貴樹に言っています。
「また手紙書くね!」ではなく。
貴樹の
「手紙を書くよ!電話も!」
という言葉に対して
「私も!」
とは答えていません。
明里も、貴樹と同じように、このさき一緒にいることは出来ないとはっきりわかったのでしょう。
貴樹に「大丈夫」と言ったのは?
明里が貴樹が必要だったように、貴樹にも明里が必要だったことをわかっていて
大丈夫だよと背中を押してあげたのだと思います。
その大丈夫だよ、という言葉は、これからの自分に対しても「大丈夫」といってあげたかった言葉なのではないかと。
男と女の違い?
最後、明里は婚約者の腕に頭をくっつけて、結婚を控えた女性の幸せそうな笑顔でした。
男と女では、過去の恋に対しての保存方法が違うと言います。
男は、タイトル別に保存する。
女は、上書き保存する。
でも、明里は上書きじゃなく、初恋として保存していたんじゃないかな?って思います。
なぜなら、実家に置いていた思い出の箱の中に、貴樹からの手紙をしまってあったからです。
明里は貴樹に恋をしたけど、それは淡い初恋だった。
貴樹と明里は、再会した日にキスをしたけど、そこから恋人としてスタートしていれば、ケンカしたり、もっと好きになったりをしていきますよね。
ふたりは恋人になれる距離にいなかったのです。
だから、明里は、再会した日の翌朝、貴樹のいない未来を歩く決心をしたのだと思います。
今なら、スマホがあって。
また違った距離になったのかもしれないけれど。
電話だって、遠かったら、通話料が高かった時代のお話です。
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